
で、大変おもしろいんですね。それで、北大の東名誉教授に聞きましたら、これはとてもめずらしい木目だと言うんですね。これは普通にすくすくと育った木じゃなくて、急斜面で地滑りとかがけ崩れがあって、木が倒れて死にかけたのが、もう1回馬力を出して起き上がった、その木の苦闘の跡がこの異常年輪という形で出てきているのであるというわけなんです。樹木年代学で言うと非常に貴重な木目のものなんだけれども、木材産業界においては、はねものとして全く価値はゼロ。しかし、そこに目をつけたのがこの「創り人」でございまして、この木目の不規則な変化のおもしろさに取りつかれて、こういうのをいろいろとつくっていらっしゃるわけですね。 ところが、これに対してネーミングがないんですね。ストーリーもないんですね。私は自分の学生にこれを見せて、君らは今、アートマネージャーだから、早速アートマネージャーの仕事をしようということで、これに名前をつけてくれと言ったんです。そうしたら、いろいろおもしろいネーミングが出てまいりました。実はこれがアートマネージャーの最初の仕事なんですね。 ちょっとご紹介しますと、ヒネクレボンとか、キキモクボール(奇木目ボール、奇木木ボール)とか、モウケモノ、フシキ(不思木)など、いろいろ出てまいりました。次に、今度はストーリーをつくってもらいました。 ヒネクレボンというネーミングをした学生のストーリーをちょっと紹介しますと、「昔々、置戸町に1人の少年がいた。その少年は非常にひねくれていて、人が『働いてくれ』と言っても、全然働いてくれなかった。しかし、あるとき、1人の老人が『働くな』と言ったところ、少年は見違えるように働いた。そのときから、よく働くものをヒネクレボンと呼ぶようになった」というわけなんです。 つまり、アートマネージャーというのは、「創り人」が一生懸命つくったものに対して名前を与えて、ストーリーを与えて、付加価値をつけていく人だと思うんですね。したがって、ただ単にホールの場合だけじゃなくて、その地域におけるあらゆる「創り人」にかかわる世話役ともなるということだろうと思います。 キキモクボールというのは、奇妙な木の木目のボールという意味で、これもストーリーを―これは女子学生でございますが―書いてもらいましたら、「人間が大切な大切な木を取り過ぎないよう、むだ遣いしないよう、木の王様が見張っているんだって。その木の王様でつくったキキモクボールを手に入れると、一生、リンゴやナシとか、木になる実がいつでも食べられて、しかも、おいしく食べられるって」というふうな作品をつくって
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